成功体験(サッカ―)
南アフリカワールドカップの熱狂が一段落し、新生日本代表がイタリア人・ザッケロ―ニ氏を招いてスタートをした。ホームとはいえサッカー大国アルゼンチンを1:0で下し、アウェイでの韓国戦を引き分けに持ち込んだ。上首尾なスタートと言えよう。 長年のサッカ―ファンとしては嬉しい限りである。
マスコミは『ザックの魔法』などと新監督を褒めそやしているが、やはり岡田監督が今年前半でもがき苦しみ、最後の最後で活路を開いた「コレクティブな守備」「球際で勝つこと」といった大舞台で得た体験・記憶がポジティブな形でインパクトを与えていると思う。その上にたってこそ、「縦へ(前へ)の意識をもっと!」というザッケロ―ニ監督の指示が良い化学変化を生みだしているのであろう。
そして何より、自国開催以外で初めてグローバルでのベスト16に入った、という成功体験からくる自信が大きく物を言っているように感じられる。 これほどに変わるものなのか!と驚嘆に目を見張る思いである。
「負けてもいいから日本らしいサッカー、質の高いサッカーを見せてほしい」という意見がワールドカップ前にチラホラ見受けられた。大会中も著名なサッカ―コラムニストが舌鋒鋭く岡田監督の手法を批判し続けていたが、それは全くの見当違いというもので、ワールドカップとは疑似戦争のような勝敗にこそこだわるべきものと私は思っている。そして、勝つことによってしか得られない自信がどれほど次への糧になるかは今回のザックジャパンによって大いに証明された気がする。
南アW杯までの日本代表は、ブラジル・アルゼンチン・スペインなどの大国を相手にすると、不必要なほどに相手をリスペクトしすぎ「勝とうとする意志」が感じられないことが多かった。戦わずして気持ちで負けている感じ。 それが今回のアルゼンチン戦では微塵も感じられず全員がファイトをしていた。南アW杯ベスト16に食い込むことで、長年日本サッカー界に巣食っていたメンタル面での負のバリアーがようやっと取り除かれた気がしたのは私だけであろうか。
成功体験の持つ大きな効果を再認識するこの二試合であった。
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失われた20年、という表現が日本経済に対してよく使われる。それがもたらすインパクトとして、成功体験を十分に持ち得ていない若手層がドンドン増えているという事実が挙げられる。自分に対して自信が持てない、思い出せる成功体験がない、というのはかなりつらいものである。対して、中国等新興国においては成功体験を持つ(失敗も!)若手がドンドン産み出され、実力以上の勢いを獲得しているように思われる。現状、彼我の差は大きい。
ある雑誌に載っていた証券会社スタッフのコメントで「最近外国人の日本株買いに勢いがなくなっている。理由を問うと“日本の若者の目には輝きがなくどんよりした印象を受ける”」というものがあった。我々が失い続けているものはとても大きいように思う。
日本サッカ―界もメキシコ五輪銅メダル以来ずいぶん長いトンネルをくぐってきている。そして、ドーハの悲劇・ジョホールバルの歓喜・日韓W杯ベスト16・ドイツW杯惨敗、と徐々にステップアップしてきて、今回「勝つことにこだわって成功体験を得た」段階にようやく入ったわけである。
日本社会も「勝つことにこだわり、成功体験をもった若者の数を少しでも増やしていければ」、などとサッカ―観戦をしていて思った次第である。 (2010年10月28日@ポーランド)